リレーコラム

リレーコラム3 「三方よし」

2016年2月9日 09時24分 [事務局]

ミュージアムという概念が日本に導入され、定着して久しい。ミュージアムには、博物館という建物だけでなく、ミュージアムという機能も合せて考える必要がありますが、一般の方には建物のイメージが強いですね。近年のミュージアムを取り巻く社会環境、社会的要請は、国、自治体、企業等の財政・財源の厳しさを受け、ハードへの支援が減ってきていること、ソフトを充実させ、社会に対しミュージアムの存在意義を提示することが求められています。地域社会を巻き込んだミュージアムという考え方がますます必要になってきているのでないでしょうか。

私自身の経験を申し上げると、「三方よし」という言葉に出会い、その考え方に感銘を受けました。東近江市にある近江商人博物館は江戸時代から活躍した近江商人の当時の様子を展示しています。ご案内の方が多いかと思いますが、三方よしは近江商人が遠方にて商売をする場合の家訓として残した言葉とも言われております。三方よしとは、買い手よし、売り手よし、世間よしのことです。近江商人が見知らぬ土地で商売をする場合、まずは買い手にとって良い商売をするのは当たり前ですが、売り手にとってもメリットがないと商売は続きません。さらに、近江商人が出先地域での商売が許さるためには、その地域への経済的貢献が必要であることを示しています。近江商人は成功をおさめ、現在の繊維業・総合商社・百貨店業等に引き継がれております。

ミュージアムの事業をマーケティングという目で見てみると、ミュージアムという市場において、様々な「モノ」「人」「情報」があり、価値のあるものを体験し、体験を持って帰る利用者とそれを提供するミュージアムということになるでしょう。買い手である利用者にとって価値があり、売り手であるミュージアムにとってメリットのある事業を展開することが求められております。さらに世間である地域社会や設置者から見た価値を創造できる事業を考える必要があります。三者の関係性はそれぞれが主張する価値によって拮抗することもあります。利用者にとって満足できる事業でも職員にとって負担があり、ミュージアムの資源が枯渇する場合、事業は続きません。また設置者から見て納得できる事業戦略を計画する必要があります。三者にとって価値のある、そして価値を協創できる関係性を構築していくことが重要だと思います。

JMMAでは、2012年度の大会でミュージアムの文化的価値に関するシンポジウムを開催しました。利用者が経験できる個人的価値、ミュージアムが提供する学術的価値、社会に要請される社会的価値という提案がありました。江戸時代の三方よしは、ミュージアムの経営にも生かすことができる理念だと思います。現代風に言えば三つのステークホルダーがウィン・ウィン・ウィンの関係というところでしょうか。

2016年度のJMMA大会は、617日~19日に北海道で開催されます。テーマは「人々とともにつくるミュージアムの文化的価値」です。ミュージアムが地域の人々とともにどのような価値を創造できるのか、皆さん一緒に考えてみましょう。

JMMA副会長 小川義和
(2016年2月8日)