『ビジュアル博物館学Basic ミュージアムABCシリーズ』の紹介
2023年2月8日 13時20分 [事務局]『ビジュアル博物館学Basic ミュージアムABCシリーズ』の紹介
髙橋 修
こうした最中、絶好のタイミングで公刊されたのが『ビジュアル博物館学Basic ミュージアムABCシリーズ』(以下「本書」)である。ミュージアムABCシリーズはA巻:Art(美術館・アート系を中心)、B巻:Basic(歴史系博物館を中心とした基礎編)、C巻:Curation(科学館・水族館・動物園など自然・技術系を中心)の3冊構成である。本書B巻は歴史系博物館を主たる素材とした入門書と位置づけられている。
大学の学芸員養成課程に準拠し、教科書として活用できるよう、資料論・教育論・展示論・経営論・調査研究論・資料保存論・情報メディア論・博物館史・建築論がそれぞれ章立てされている。さらに事例研究として長崎歴史文化博物館・島根県立古代出雲歴史博物館の2館を取り上げているので、博物館運営の理論と実際を立体的に把握することが出来る。通読すれば博物館の基礎が一通り身に付くであろう。
本書の特質として、表題に「ビジュアル博物館学」と冠するとおり、図版を多用した見易さ重視の編集であることが挙げられる。随所に長崎歴史文化博物館の教育普及キャラクター「にゃがさき奉行」殿が登場し、本文にコメントを入れ、それが内容理解の手引きとなっている。
初学者の発展学習にも配慮し、「博物館学を学ぶための必読書10選」はもとより、博物館を舞台とした漫画・小説も紹介されている。一方で、博物館・博物館学の国内外の定義の変遷について、原資料を挙げながら検討し、高度な専門性も保たれている。
本文の記載内容も個性に溢れている。例えば、日本の博物館の原点は人々の「感動力」を育むことにあったと指摘した箇所等である。さらに、博物館史の重要人物として一志茂樹の地方博物館論を紹介しているのも類書には見られない。一志は戦後すぐの博物館問題として、「多くの人々に何か古くさくて無味乾燥な、生気の乏しいところ」・「どこかよりつきにくい、実社会から遊離してゐるかの印象」と述べる。現代でも時々、投げかけられる博物館の負のイメージは、すでに70年前にも存在していたのである。
果たして日本の博物館は真の意味で発展したのか?その未来像は何か?博物館誕生150年の節目の年にもう一度、原点に返ってみるのも良いであろう。本書がそのための最良のガイドとなり得ていることを編著者の一人として願う次第である。
(水嶋英治・髙橋 修・山下治子『ビジュアル博物館学Basic ミュージアムABCシリーズ』人言洞、2022年12月、B5版、本文160頁及び口絵8頁、税込2,530円)